大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(レ)48号 判決

被控訴人は、控訴人に対し、東京都大田区大森一丁目二百四十一番宅地七十八坪の内西南隅十坪の地上にある木造亜鉛鋼板葺平家建住宅一棟建坪七坪及び附属木造便所建坪二合五勺を収去して、右敷地の明渡をせよ。

訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。

二、事  実

被控訴人は、主文同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、本件土地の賃料は、昭和二十二年七月分以降同二十四年四月分迄は、供託してあるが、その後は訴が提起されたので供託していないと述べ、控訴代理人は、被控訴人主張の通り賃料の受領を拒絶したこと及び右供託の事実は、いずれも認めると述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

東京都大田区大森一丁目二百四十一番宅地七十八坪は控訴人の所有であるが昭和二十年十一月頃被控訴人の母きんが墓参の帰途右土地附近で偶然控訴人に会つた際、被控訴人が先代以来理髪業を営んでいた罹災跡地を使用できず困つていることを話し適当な借地の斡旋方を控訴人に頼んだところ、控訴人は被控訴人先代と親交があつた関係で被控訴人の境遇に同情し当時罹災のまゝ放置してあつた右土地を使用してもよろしいと話したが、その際使用坪数との位置、賃料等については何等の話合がなかつたことは当事者間に争がなく、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果並びに当審証人田中幸造の証言によれば、被控訴人はその数日後控訴人方を訪れ、右土地の西南部に建築することを告げた後同年十二月中任意に敷地を選定し、義兄の手伝を得て木造平家建五坪二合五勺の住宅兼店舗と便所を自己の手で建築し同月末頃から理髪店を開業したものであることが認められる。

而して右各証拠並びに原審及び当審における証人石田きん、鴻池愛之助、鷲見美恵、控訴人本人の各供述を綜合すると、被控訴人が右土地使用を開始した後も依然として地代その他土地使用の条件について何等の話合がなかつたところ、昭和二十一年七月に至り被控訴人は母きん、叔父鴻池愛之助と相談の上金百円を鴻池に託して控訴人に交付したが、翌八月控訴人が右土地に家屋を建築することとなり被控訴人の家屋を間口三尺ほど南方に移動させたことを認めることができ、被控訴人がその後同年十二月、昭和二十二年七月及び十二月、昭和二十三年七月に各金五百円宛を控訴人に交付したことは当事者間に争がない。

被控訴人は右の金員は土地使用の対価たる賃料として授受されたものであると主張し、被控訴人援用の各証人、本人の供述中にはその趣旨の供述があるが、前段掲記のように、本件土地使用の契約は偶然路上で出会つた際の立話で控訴人が被控訴人の境遇に同情した結果成立したものであり、使用土地の面積も位置もきめずいわんや地代に関しては何等話題に上ることすらなかつたこと、その使用土地の位置、範囲の選定もすべて被控訴人に一任せられ控訴人はその決定について相談を受けず現場に立会わず、後日に至つてこれを確認したにとどまること、被控訴人の使用開始後にも使用坪数が何坪であるかすら相互に確認しようともせず地代に関する取極交渉もなく経過したこと、前記金員の額は双方の合意によつて決定せられたものでなく被控訴人側において適当に見積つた額であつて、当時の相当地代額や坪当りの金額を考慮に入れていないこと、その授受の時期が毎年七月、十二月という儀礼的贈答の行われる時期であつたこと、右金員はおおむね白紙に包んであつて一応右のような儀礼的贈答と思われやすい形式をとつており且つ賃料支払に対して通常交付されるその受取証書の発行がないこと(この事実は前記控訴本人の供述によつてこれを認められる)、第一回の金百円を授受した直後控訴人の右土地使用の都合から被控訴人の家屋を移動させたこと、被控訴人が建築した家屋が素人造りの粗末なバラツク風のものであつたこと(この事実は鷲見証人の当審証言によつて認められる)等を合せ考えると、控訴人は被控訴人の窮境に同情しさしあたつて使用を予定していなかつた前記土地の一部を好意的に提供し被控訴人をして取りあえず営業を再開できるように取計らつてやつたにすぎず長期にわたつて被控訴人に対し建物所有の目的をもつて右土地の一部を使用することを許諾したものではなく、さればこそ使用土地の坪数、位置その他の使用条件については何等取極めるところなくすべて被控訴人の任意に選定するに任せ、賃料についても全然交渉するところがなく、被控訴人もまたこの関係を了解していたがために進んで地代の決定を求めず使用部分の移動にもあえて異議をいわなかつたものと判断するのが相当である。このような見地から考えると被控訴人援用の前掲各供述はにわかに信用し難く、むしろ控訴人本人が供述するように、前記の各金員はいずれも控訴人の好意に謝する意味で盆暮の儀礼的贈物として提供されたものであつて、右土地使用の対価たる趣旨ではなかつたと認めるべきである。(被控訴人援用の各供述によつても地代として提供することを控訴人に明示したことの確たる証拠がないことをも考慮すべきであろう。)

以上認定のように本件土地の使用は被控訴人の当時のさしせまつた境遇を打開するためになされた期間の定めのない使用貸借契約に基くものというべきであるから、契約以来すでに六年余を経過した現在においては被控訴人は控訴人の請求に応じその使用部分を原状に復して返還すべき義務がある。而して被控訴人が前記土地の西南隅十坪の上に主文第一項記載の家屋二棟を所有し右十坪を使用していることは当事者間に争ないところであるから、被控訴人は右家屋を収去しその敷地十坪を控訴人に明渡さねばならない。

従つて控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容すべく、これと異なる見解のもとに控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるからこれを取消し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十六条を適用して主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言については、本件の場合これを附するのは相当でないと認め、その申立を却下する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 倉田卓次)

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